古典和歌stream

争へば神も憎ますよしゑやし
よそふる君が憎くあらなくに

歌の意味
言い争って打ち消せば神もお憎みになる。ままよ、噂で私と結びつけられているあなたが憎いわけではないのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2659

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 人に噂を立てられて打ち消そうとすれば神もお憎みになるだろう、ままよ、噂で結びつけられているあなたが憎いわけではないのだからと、噂を受け入れる心を詠んだ歌である。噂を否定することへのためらいに、相手への秘めた好意をのぞかせている。
 前歌までに続き、神に寄せた一首である。事実を言い争って打ち消すことを神が憎むという考えを背景に、噂を打ち消さずに受け入れようとする心の動きを描いている。女性の歌とする見方がある。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「争へば」は、言い争って打ち消すならばの意である。噂を否定することを指している。
 二句「神も憎ます」は、神もお憎みになるの意である。「ます」は尊敬の意を添える助動詞で、ここで句切れとなる。
 三句「よしゑやし」は、ままよ、どうなろうとかまわないの意で、思い切る気持ちを表す語である。ここでも句が切れ、心が転じている。
 四句「よそふる君が」は、噂で私と結びつけられているあなたがの意である。「よそふ」は、二人を関わりがあるものとして言いなすことをいう。
 結句「憎くあらなくに」は、憎いわけではないのにの意である。「なくに」は打消の「ず」のク語法に助詞「に」が付いた形で、詠嘆を込めて言いさしている。

あらそふ:言い争う、事実を打ち消す
よそふ:他のものと関係づける、噂で二人を結びつけて言う
出典
万葉集
前の歌
天雲の八重雲隠り鳴る神の 音のみにやも聞きわたりなむ
次の歌
夜並べて君を来ませとちはやぶる 神の社を祷まぬ日はなし