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まそ鏡清き月夜のゆつりなば
思ひはやまず恋こそまさめ

歌の意味
清らかな月夜の月が移って行ってしまったなら、思いはやまず、恋しさはいっそうまさるだろう。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2670

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 今は清らかな月を眺めて心を慰めているが、その月が移り沈んでしまったら、思いはやむことなく恋しさがいっそうつのるだろうと詠んだ歌である。月が恋の慰めであると同時に、恋人を思い出させるよすがでもあることがうかがえる。
 月に寄せる歌の一首で、前歌の第二千六百六十九首と「清き月夜」の句を共有し、三句「ゆつりなば」は第二千六百七十三首にも見える。月が移り去った後の恋のつのりを詠む点で、両歌は同じ趣向を別の言葉で詠んでいる。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「まそ鏡」は、よく磨いた鏡の意で、ここでは「清き」にかかる枕詞である。澄んだ鏡のイメージが月の清らかさを引き立てている。
 二句「清き月夜の」は、清らかに澄んだ月夜の月が、の意である。格助詞「の」は主語を示している。
 三句「ゆつりなば」は、移って行ってしまったなら、の意である。「ゆつる」は「うつる」の古い形で、完了の「ぬ」の未然形に「ば」が付いて仮定を表している。
 四句「思ひはやまず」は、思いはやまないで、の意である。月が沈んでも物思いは終わらないことをいう。
 結句「恋こそまさめ」は、恋しさはいっそうまさるだろう、の意である。係助詞「こそ」を受けて推量の助動詞「む」の已然形「め」で結ぶ係り結びで、恋のつのる確かさを強く述べている。

まそかがみ:よく磨いた鏡。「清し」「見る」などにかかる枕詞
ゆつる:移る。ここでは月が空を移り沈む意
出典
万葉集
前の歌
我が背子が振り放け見つつ嘆くらむ 清き月夜に雲なたなびき
次の歌
今夜の有明月夜ありつつも 君をおきては待つ人もなし