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この山の嶺に近しと我が見つる
月の空なる恋もするかも

歌の意味
この山の嶺に近いと私が見た月が空にあるように、うわの空の恋をすることだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2672

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 山の嶺に近いと見ていた月が空に浮かんでいるように、心が落ち着かずうわの空になるような恋をしていると嘆く歌である。月が「空」にあることと心が「空」であることを掛けた技巧の歌で、恋に心を奪われたさまを月に託している。
 月に寄せる歌の一首で、結句「恋もするかも」は第二千六百七十五首にも同じ形で見え、序詞で景を描いて「…恋もするかも」と結ぶ型を共有している。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「この山の」は、目の前の山を指し示す句である。実景として眺めている山であることを示している。
 二句「嶺に近しと」は、嶺に近いと、の意である。格助詞「と」が、自分の目にそう映った内容を示している。
 三句「我が見つる」は、私が見た、の意である。完了の助動詞「つ」の連体形「つる」で「月」にかかり、初句からここまでと四句の「月の」までが序詞となっている。
 四句「月の空なる」は、月が空にあるように、心がうわの空である、の意である。「空」は天空の意と、心が落ち着かない意とを掛けており、ここで序詞から本旨へと転じている。
 結句「恋もするかも」は、恋をすることだ、の意である。終助詞「かも」が詠嘆を表し、思いがけず落ち着かない恋に陥ったことへの感慨を込めている。

そら:天空の意と、心が落ち着かずうわの空である意を掛ける
出典
万葉集
前の歌
今夜の有明月夜ありつつも 君をおきては待つ人もなし
次の歌
ぬばたまの夜渡る月のゆつりなば さらにや妹に我が恋ひ居らむ