ぬばたまの夜渡る月のゆつりなば
さらにや妹に我が恋ひ居らむ
- 歌の意味
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夜空を渡ってゆく月が移り沈んでしまったなら、いっそう私は妻を恋しく思い続けることになるのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2673
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
夜空を渡る月が移り沈んでしまったら、いっそう恋人が恋しくなるだろうかと、月が去った後の恋のつのりを予感する歌である。月を眺めることで支えられていた心が、月を失えばさらに乱れるだろうという不安が詠まれている。
本歌は月に寄せる歌の最後に置かれ、三句「ゆつりなば」を本巻の第二千六百七十首と共有している。第二千六百七十首が「恋こそまさめ」と言い切るのに対し、本歌は「さらにや…恋ひ居らむ」と疑問の形で結んでおり、同じ趣向を異なる語気で詠んでいる。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「ぬばたまの」は、「夜」にかかる枕詞である。ぬばたまの黒い実から、夜の闇の深さを思わせる。
二句「夜渡る月の」は、夜空を渡ってゆく月が、の意である。格助詞「の」は主語を示している。
三句「ゆつりなば」は、移り去ってしまったなら、の意である。「ゆつる」は「うつる」の古い形で、本巻の第二千六百七十首と同じ語句である。
四句「さらにや妹に」は、いっそう妻に、の意である。係助詞「や」が疑問を表し、結句の「らむ」と呼応している。
結句「我が恋ひ居らむ」は、私は恋い続けるのだろうか、の意である。四句の係助詞「や」を受けて推量の助動詞「らむ」の連体形で結ぶ係り結びであり、「居り」が恋い続ける状態を表している。
ぬばたま:ヒオウギの黒い実。「ぬばたまの」の形で「夜」「黒」などにかかる枕詞
ゆつる:移る。ここでは月が空を移り沈む意
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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この山の嶺に近しと我が見つる 月の空なる恋もするかも
- 次の歌
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朽網山夕居る雲の薄れゆかば 我れは恋ひむな君が目を欲り