古典和歌stream

朽網山夕居る雲の薄れゆかば
我れは恋ひむな君が目を欲り

歌の意味
朽網山に夕方かかっている雲が薄れて消えていったなら、私は恋しく思うことだろう。あなたに逢いたくて。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2674

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 朽網山に夕方かかっている雲を見ては恋人を偲んでいるが、その雲が薄れて消えてしまったら、いっそう恋しくなるだろうと詠んだ、女性の立場の歌である。山にかかる雲を恋人の形見のように眺める心が詠まれている。
 前歌までの月に寄せる歌に続き、本歌から雲に寄せる歌が並ぶ。月が移り去った後の恋を詠んだ前歌に対し、本歌は雲が薄れていった後の恋を詠んでおり、去りゆく景物に恋のつのりを託す点で同じ趣向を引き継いでいる。朽網山は豊後国の山で、都から遠い地名が詠み込まれている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「朽網山」は、豊後国、現在の大分県の山である。久住山一帯を指すとされ、地名を初句に据えて景を定めている。
 二句「夕居る雲の」は、夕方にじっとかかっている雲が、の意である。「居る」は雲などが一所にとどまることをいう。
 三句「薄れゆかば」は、薄れていったならば、の意である。未然形に「ば」が付いて仮定を表している。
 四句「我れは恋ひむな」は、私は恋しく思うことだろうよ、の意である。推量の助動詞「む」に詠嘆の終助詞「な」が付いた形で、ここで句切れとなる。
 結句「君が目を欲り」は、あなたに逢いたくて、の意である。「目」は逢うことを表し、四句の理由を後から添える倒置となっている。

くたみやま:豊後国の山。現在の大分県の久住山一帯とされる
ゐる:雲などが一所にじっととどまる
ほる:欲しいと思う、望む
出典
万葉集
前の歌
ぬばたまの夜渡る月のゆつりなば さらにや妹に我が恋ひ居らむ
次の歌
君が着る御笠の山に居る雲の 立てば継がるる恋もするかも