川千鳥棲む沢の上に立つ霧の
いちしろけむな相言ひそめてば
- 歌の意味
-
川千鳥が棲む沢のほとりに立つ霧のように、はっきりと人目につくだろうよ。互いに言葉を交わし始めたならば。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2680
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
川千鳥の棲む沢に立ちこめる霧がはっきりと見えるように、二人が言葉を交わし始めたなら、恋はたちまち人目につくだろうと案じる歌である。恋の始まりを前にして、人の噂を恐れるためらいが詠まれている。
前歌までの風に寄せる歌に続き、本歌は霧に寄せる歌である。上の句の沢の霧の景が序詞となって、下の句の恋の心を導いている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「川千鳥」は、川辺にすむ千鳥をいう。水辺の景を描き出し、序詞の始まりとなっている。
二句「棲む沢の上に」は、千鳥が棲む沢のほとりに、の意である。八音の字余りとなっている。
三句「立つ霧の」は、立ちこめる霧のように、の意である。初句からここまでが序詞で、霧のはっきり見えるさまから四句の「いちしろけむ」を導いている。
四句「いちしろけむな」は、はっきりと人目につくだろうよ、の意である。形容詞「いちしろし」に推量の「む」と詠嘆の「な」が付いた形で、ここで句切れとなる。
結句「相言ひそめてば」は、互いに言葉を交わし始めたならば、の意である。完了の「つ」の未然形に「ば」が付いた仮定条件で、四句の理由を後から示す倒置となっている。
かはちどり:川辺にすむ千鳥
あひいふ:互いに言葉を交わす。ここでは恋を語らう意
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
窓越しに月おし照りてあしひきの あらし吹く夜は君をしぞ思ふ
- 次の歌
-
我が背子が使を待つと笠も着ず 出でつつぞ見し雨の降らくに