笠なしと人には言ひて雨障み
留まりし君が姿し思ほゆ
- 歌の意味
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笠がないと人には言って、雨に降りこめられたことにして留まっていたあなたの姿が思い出される。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2684
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
笠がないからと人には言いつくろい、雨を口実にして自分のもとに留まってくれた恋人の姿を、女がなつかしく思い出している歌である。人目をはばかりながらも帰らずにいてくれた男の振る舞いに、二人の仲の睦まじさとそれを懐かしむ女の心がにじんでいる。
「物に寄せて思ひを陳ぶ」の部立のうち、雨に寄せる歌の一連に属する。本巻の第二千六百八十一首、第二千六百八十二首と雨を詠む歌が続き、次歌では男が雨を口実に女の家に立ち寄りたいと願っている。雨を逢瀬の口実とする点で、本歌の女の回想と次歌の男の願いとは表裏をなす趣向である。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「笠なしと」は、笠がないということ。「と」は次の「言ひて」の内容を示す。雨の中を帰れないという口実である。
二句「人には言ひて」は、他人にはそのように言っての意で、係助詞「は」によって「人には」と取り立て、本心は別にあることをほのめかしている。
三句「雨障み」は、雨に降りこめられて外出を控えることをいう名詞である。ここでは雨を理由に女のもとに留まったことを指す。
四句「留まりし君が」は、留まっていたあなたがの意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、過ぎた日の出来事として回想していることを示す。
結句「姿し思ほゆ」は、姿が思い出されるの意である。「し」は強めの副助詞、「思ほゆ」は自然と思われる意で、思い出が自然に浮かんでくることを表している。
あまつつみ:雨に降りこめられて外出を控えること
おもほゆ:自然と思われる、思い出される
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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彼方の埴生の小屋に小雨降り 床さへ濡れぬ身に添へ我妹
- 次の歌
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妹が門行き過ぎかねつひさかたの 雨も降らぬかそをよしにせむ