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桜麻の麻生の下草露しあれば
明かしてい行け母は知るとも

歌の意味
桜麻の麻畑の下草に露が置いているので、夜を明かしてから行きなさい。たとえ母が知ろうとも。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2687

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 麻畑の下草には露が置いていて帰り道に濡れるから、夜が明けるまでここにいてから行きなさい、たとえ母に知られても構わないと、女が男を引き留める歌である。露を口実にしながら、母の監視を恐れずに男を引き留めようとする女の大胆な愛情が詠まれている。
 露に寄せる一連の歌で、前歌では露が待つ女の袖に置いていたが、本歌では男の帰り道を濡らす露として詠まれている。恋の仲を母に知られることを恐れる歌は万葉集に多く、それを承知の上で「母は知るとも」と言い切った点に本歌の特色がある。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「桜麻の」は、麻の一種をいう語で、次の「麻生」を導いている。花の咲く麻とも、色が桜色を帯びた麻ともいわれる。
 二句「麻生の下草」は、麻の生えている畑の下草の意である。「麻生」は麻畑のことで、男が帰るときに通る道を思わせる。
 三句「露しあれば」は、露が置いているのでの意である。「し」は強めの副助詞、「あれば」は已然形に「ば」が付いた確定条件で、引き留める理由を示している。
 四句「明かしてい行け」は、夜を明かしてからお行きなさいの意である。「い行け」の「い」は動詞に付く接頭語で、命令形で言い切り、ここで句切れとなる。
 結句「母は知るとも」は、たとえ母が知ろうともの意である。「とも」は逆接の仮定条件を表す接続助詞で、倒置によって命令の後に添えられ、女の覚悟を強く印象づけている。

さくらを:麻の一種。花の咲く麻とも、桜色を帯びた麻ともいう
をふ:麻の生えている畑
あかす:夜を明かす
出典
万葉集
前の歌
夕占問ふ我が袖に置く白露を 君に見せむと取れば消につつ
次の歌
待ちかねて内には入らじ白栲の 我が衣手に露は置きぬとも