はしきやし逢はぬ君ゆゑいたづらに
この川の瀬に玉裳濡らしつ
- 歌の意味
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ああ、いとしいのに逢ってくれないあなたのために、むなしくこの川の瀬で美しい裳を濡らしてしまった。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2705
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
逢ってくれない男のために川の瀬を渡り、むなしく裳の裾を濡らしてしまったと嘆く女性の歌である。いとしさと恨めしさの入りまじった気持ちを、濡れた裳という具体的な姿で表している。
川の瀬に寄せて思いを述べた歌であり、川を渡って男のもとへ通おうとした女性の行動が、報われない恋の象徴となっている。前後の歌が川の水の流れを序詞に用いるのに対し、本歌は川を実際に渡る行為そのものを詠んでいる点に特色がある。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「はしきやし」は、ああいとしい、の意の感動表現である。逢ってくれない相手への愛情を、まず嘆息とともに打ち出している。
二句「逢はぬ君ゆゑ」は、逢ってくれないあなたのために、の意である。「ゆゑ」は原因、理由を示し、恋しいのに逢えない恨みがこもっている。
三句「いたづらに」は、むなしく、甲斐もなく、の意で、川を渡った苦労が報われなかったことを表している。
四句「この川の瀬に」は、この川の瀬で、の意である。「この」と指し示すことで、いま目の前にある川であることを示している。
結句「玉裳濡らしつ」は、美しい裳を濡らしてしまった、の意である。「玉」は美称で、完了の助動詞「つ」が、もう取り返しのつかない嘆きを表している。
たまも:裳の美称。裳は女性が腰から下にまとった衣
せ:川の浅く流れの速いところ
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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あしひきの山下響み行く水の 時ともなくも恋ひわたるかも
- 次の歌
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泊瀬川早み早瀬をむすび上げて 飽かずや妹と問ひし君はも