しなが鳥猪名山響に行く水の
名のみ寄そりし隠り妻はも
- 歌の意味
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猪名山を鳴り響かせて流れて行く水の音のように、評判ばかりが高く立って私と結びつけられた、人目に隠れた妻よ、ああ。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2708
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
猪名山に響きわたる水音のように、噂ばかりが高く立って二人の仲が言い立てられたものの、実際には思うように逢えないままの「隠り妻」を思う歌である。評判だけが先行し、実のともなわない恋のもどかしさが詠嘆の形で表されている。
山を響かせて流れる水に寄せた歌で、水音の高さが世間の噂の高さの比喩となっている。「響」の語は前々歌の「山下響み」とも共通し、結句を「はも」で結ぶ形は前歌の「問ひし君はも」と共通している。
なお原文には「一云 名のみ寄そりて恋ひつつやあらむ」という異伝が注記されている。これによれば下の句は、評判ばかり立って恋い続けることになるのだろうか、の意となる。ここでは本文の「名のみ寄そりし隠り妻はも」を採った。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「しなが鳥」は「猪名」にかかる枕詞である。しなが鳥は水鳥の一種とされる。
二句「猪名山響に」は、猪名山を鳴り響かせて、の意である。猪名山は摂津国の猪名川流域、現在の大阪府池田市付近の山とされる。
三句「行く水の」は、流れて行く水のように、の意である。初句からここまでが序詞で、高く響く水音から評判の意の「名」を導き、あわせて「猪名」の「な」の音を四句の「名」に響かせている。
四句「名のみ寄そりし」は、評判ばかりが立って私と結びつけられた、の意である。「寄そる」は噂によって人と人とが関係づけられることをいう。「のみ」が、実際には逢えていないことを暗に示している。
結句「隠り妻はも」は、人目に隠れている妻よ、ああ、の意である。「隠り妻」は人に知られないように通う妻をいい、「はも」は深い詠嘆を表している。体言に助詞を添えて言い終えている。
しながどり:水鳥の一種とされる。「猪名」「安房」にかかる枕詞
よそる:噂によって人と結びつけられる
こもりづま:人目を忍んで隠れている妻
- 出典
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万葉集
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青山の岩垣沼の水隠りに 恋ひやわたらむ逢ふよしをなみ
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我妹子に我が恋ふらくは水ならば しがらみ越して行くべく思ほゆ