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明日香川行く瀬を早み早けむと
待つらむ妹をこの日暮らしつ

歌の意味
明日香川の流れて行く瀬が速いように、早く来るだろうと待っているであろうあの子なのに、この一日を暮らしてしまった。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2713

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 明日香川の流れの速さに寄せて、早く来てくれるだろうと待っているはずの女性のもとへ行けないまま、一日を過ごしてしまったと悔やむ男の歌である。待つ女性の姿を思いやる気持ちと、行けなかった自責の念が表されている。
 川の瀬の速さに寄せて思いを述べた歌で、「早み」から同じ音の「早けむ」を導いている。明日香川は本巻の第二千七百一首、第二千七百二首にも詠まれており、明日香川に寄せる歌がこの一連の中に繰り返し現れている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「明日香川」は、大和国の明日香を流れる川で、現在の奈良県明日香村を流れる飛鳥川である。
 二句「行く瀬を早み」は、流れて行く瀬が速いので、の意である。「を~み」は理由を表す形である。初句からここまでが序詞で、「早み」の音から三句の「早けむ」を導いている。
 三句「早けむと」は、早く来るだろうと、の意である。推量の助動詞「む」によって、待つ女性の心の内を推し量っている。
 四句「待つらむ妹を」は、待っているであろうあの子なのに、の意である。「らむ」は現在推量の助動詞で、いまごろ待っているはずの女性の姿を思いやっている。「を」は逆接の意を含んでいる。
 結句「この日暮らしつ」は、この一日を暮らしてしまった、の意である。完了の助動詞「つ」が、行けないままに日が暮れてしまった悔いを表している。

いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
くらす:日が暮れるまで時を過ごす
出典
万葉集
前の歌
言急くは中は淀ませ水無川 絶ゆといふことをありこすなゆめ
次の歌
もののふの八十宇治川の早き瀬に 立ちえぬ恋も我れはするかも