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高山の岩もとたぎち行く水の
音には立てじ恋ひて死ぬとも

歌の意味
高い山の岩の根もとを激しく流れてゆく水の音のように、声に出して人に知られることはするまい。たとえ恋い焦がれて死ぬとしても。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2718

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 高い山の岩の根もとを激しく流れる水の音に寄せて、恋い死にするとしても思いを表に出して人に知られることはしないと誓う歌である。激しい水音を序に用いながら、それとは逆に恋を胸の内に秘め通そうとする強い決意を述べている。
 山の水の音に寄せて思いを述べた歌である。本巻の第二千七百十六首と同じく高い山から流れ下る水を詠み、そこでは心が砕ける思いを述べたのに対し、本歌は恋を口外しない決意を述べている。また前歌は堰を越す波と急流に寄せて噂がとどろくことを嘆いており、水音を立てまいとする本歌と対をなしている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「高山の」は、高い山の、の意である。本巻の第二千七百十六首の初句「高山ゆ」と同じく、高い山から流れ下る水を詠み起こしている。
 二句「岩もとたぎち」は、岩の根もとで水が激しく沸き立つように流れて、の意である。
 三句「行く水の」は、流れてゆく水の、の意である。初句からここまでが序詞で、激しい水の音から四句の「音」を導いている。
 四句「音には立てじ」は、声に出して人に知られるようにはするまい、の意である。「音に立つ」は、評判や噂になるように表に出すことをいう。「じ」は打消の意志を表す助動詞で、ここで句切れとなる。
 結句「恋ひて死ぬとも」は、たとえ恋い焦がれて死ぬとしても、の意である。四句との倒置によって、命をかけても秘め通すという決意を強く印象づけている。「とも」は逆接の仮定を表している。

たぎつ:水が激しく沸き立つように流れる
いはもと:岩の根もと
出典
万葉集
前の歌
朝東風にゐで越す波の外目にも 逢はぬものゆゑ瀧もとどろに
次の歌
隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず 人に語りつ忌むべきものを