あまたあらぬ名をしも惜しみ埋れ木の
下ゆぞ恋ふるゆくへ知らずて
- 歌の意味
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数多くもない我が名を惜しんで、埋もれ木のように人知れず心の底で恋している。この恋の行く末もわからないままに。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2723
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
数多くもない自分の名、つまり取るに足りない身の評判を惜しんで、埋もれ木のように表に出さず心の底で恋い続けている、と詠んだ恋の歌である。名を惜しむために恋を隠し、しかもその恋がどうなるのかもわからないという、二重のやるせなさを言い表している。
詞書の「物に寄せて思ひを陳ぶ」は、身近な物や景物に託して恋の思いを述べる歌を集めた部立である。本歌は土中や水中に埋もれて見えない「埋れ木」に寄せて、人目を忍ぶ恋を表している。結句の「ゆくへ知らずて」は、本巻の第二千七百三十九首の「ゆくへも知らず」と同じく、先の見えない恋の不安をいう句であり、次歌の「後は知らねど」とも響き合う。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「あまたあらぬ」は、数多くはない、の意である。一つしかない、あるいは取るに足りないという含みで、次の「名」を修飾している。
二句「名をしも惜しみ」は、評判をことさらに惜しんで、の意である。「しも」は強めの助詞であり、「惜しみ」は動詞の連用形で、名を惜しむことが恋を隠す理由であることを示している。
三句「埋れ木の」は、埋もれて人に見えない木の意から「下」にかかる枕詞である。人目に触れない恋の姿を形に託している。
四句「下ゆぞ恋ふる」は、心の底で人知れず恋している、の意である。「ゆ」は経由を示す助詞で、係助詞「ぞ」を受けて「恋ふる」と連体形で結ぶ係り結びとなり、ここで句切れとなる。
結句「ゆくへ知らずて」は、行く末もわからないままに、の意である。四句切れの後に置かれた倒置的な添え句で、恋の先行きの見えない不安を余韻として残している。
うもれぎ:土や水の中に長く埋もれて黒く変じた木
な:世間での評判、うわさ
ゆくへ:行く先、物事の成り行き
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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我妹子が笠のかりての和射見野に 我れは入りぬと妹に告げこそ
- 次の歌
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秋風の千江の浦廻の木屑なす 心は寄りぬ後は知らねど