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近江の海沖つ島山奥まへて
我が思ふ妹が言の繁けく

歌の意味
近江の海の沖の島山のように、心の奥深く大切に私が思っている妹について、人の噂がうるさいことだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2728

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 心の奥深く大切に思っている恋人について、世間の噂がうるさく立つことを嘆いた恋の歌である。琵琶湖の沖に浮かぶ島山の奥深い姿を借りて、ひそかに大切にしてきた恋を表し、それを騒ぎ立てる噂との対比を際立たせている。
 物に寄せて思ひを陳ぶ歌として、近江の海の沖の島山に寄せた歌である。前歌までの海の浦の歌から、ここでは淡水の湖である琵琶湖の景に移っている。結句の「言の繁けく」は人の噂の多さをいい、本巻の第二千七百二十六首の「なき名」、次歌の「寄すとも」とともに、噂を主題とする歌が近くに並べられている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「近江の海」は、琵琶湖のことである。「あふみのうみ」と六音で詠まれ、字余りの句となっている。
 二句「沖つ島山」は、沖にある島の山の意で、琵琶湖の沖島を指すとされる。「つ」は「の」の意の古い連体の助詞である。初句からここまでが序詞となり、「沖(おき)」と同じ音を持つ「奥(おく)」を導いている。
 三句「奥まへて」は、心の奥深く大切にして、の意である。行く末までもかけて深く思う意とも解される。
 四句「我が思ふ妹が」は、私が思っている妹の、の意である。「妹」は男性が恋人を親しんで呼ぶ語である。
 結句「言の繁けく」は、人の噂がうるさいことよ、の意である。「繁けく」は形容詞「繁し」のク語法で、詠嘆を込めて体言のように言い止めている。

おきつしまやま:沖にある島の山、琵琶湖の沖島を指すとされる
おくまふ:心の奥深く大切に思う
こと:人の噂、評判
いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
出典
万葉集
前の歌
酢蛾島の夏身の浦に寄する波 間も置きて我が思はなくに
次の歌
霰降り遠つ大浦に寄する波 よしも寄すとも憎くあらなくに