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霰降り遠つ大浦に寄する波
よしも寄すとも憎くあらなくに

歌の意味
遠つ大浦に寄せる波のように、たとえ人が私をあの人と言い寄せて噂しても、憎いことはないのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2729

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 遠つ大浦に寄せる波のように、たとえ世間が自分をあの人と結びつけて噂したとしても、少しも嫌ではない、と詠んだ恋の歌である。噂を恐れる歌の多いなかで、噂されることをむしろ受け入れる心情を表しているところに特色がある。
 物に寄せて思ひを陳ぶ歌として、浦に寄せる波に寄せた歌である。「寄す」は人と人とを関係づけて噂する意で、波の「寄する」と重ねている。前歌の「言の繁けく」が噂を嘆くのに対し、本歌は噂を厭わない心を述べており、噂に対する二様の態度が並べられている。次歌の「音高き」、本巻の第二千七百四十首の「寄すとも」とも対応している。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「霰降り」は「遠(とほ)」にかかる枕詞である。霰の降る音から転じたものとされる。
 二句「遠つ大浦に」は、遠つ大浦に、の意である。所在については諸説あり、琵琶湖の北岸の大浦とする説がある。
 三句「寄する波」は、打ち寄せる波、の意である。初句からここまでが序詞となり、同じ語の「寄す」を導いている。
 四句「よしも寄すとも」は、たとえ噂で言い寄せられても、の意である。「よし」は仮に許容する意を表し、「とも」は逆接仮定の接続助詞である。
 結句「憎くあらなくに」は、憎いことはないのに、の意である。「なくに」は打消の助動詞「ず」のク語法に助詞「に」が付いた形で、噂を厭わない心を詠嘆を込めて言い終えている。

よす:人と人とを関係づけて噂する
出典
万葉集
前の歌
近江の海沖つ島山奥まへて 我が思ふ妹が言の繁けく
次の歌
紀の海の名高の浦に寄する波 音高きかも逢はぬ子ゆゑに