紀の海の名高の浦に寄する波
音高きかも逢はぬ子ゆゑに
- 歌の意味
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紀伊の海の名高の浦に寄せる波の音のように、噂の高いことだ。逢ってもいないあの子のために。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2730
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
紀伊の海の名高の浦に寄せる波の音が高いように、まだ逢ってもいない娘のことで噂ばかりが高く立っている、と嘆いた恋の歌である。逢えない恋の口惜しさと、実のない噂の大きさとの落差を表している。
物に寄せて思ひを陳ぶ歌として、名高の浦に寄せる波の音に寄せた歌である。地名の「名高」と「音高き」とが響き合うように仕組まれている。逢わないのに噂が立つという趣向は、本巻の第二千七百二十六首の「逢ふとはなしに」と同じであり、前歌の噂を厭わない心とは反対に、噂を嘆く歌となっている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「紀の海の」は、紀伊の国の海の、の意である。
二句「名高の浦に」は、名高の浦に、の意である。名高は和歌山県海南市の地名で、「名高」の名が四句の「音高き」と響き合っている。
三句「寄する波」は、打ち寄せる波、の意である。初句からここまでが序詞となり、波の音から「音高き」を導いている。
四句「音高きかも」は、噂が高いことよ、の意である。「音」は波の音と世間の噂との両方を表し、「かも」は詠嘆の助詞で、ここで句切れとなる。
結句「逢はぬ子ゆゑに」は、逢ってもいない娘のために、の意である。「ゆゑに」は原因を表し、四句と倒置になって噂の空しさを強めている。
おと:うわさ、評判
こ:女性を親しんで呼ぶ語
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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霰降り遠つ大浦に寄する波 よしも寄すとも憎くあらなくに
- 次の歌
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牛窓の波の潮騒島響み 寄そりし君は逢はずかもあらむ