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白波の来寄する島の荒礒にも
あらましものを恋ひつつあらずは

歌の意味
白波が寄せてくる島の荒磯にでもなっていればよかったのに。こうして恋い続けているくらいなら。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2733

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 こうして恋に苦しみ続けているくらいなら、いっそ白波の打ち寄せる島の荒磯にでもなってしまえばよかった、と詠んだ恋の歌である。心を持たない荒磯になりたいと願うことで、人として恋に悩む苦しさの深さを表している。
 物に寄せて思ひを陳ぶ歌として、島の荒磯に寄せた歌である。「恋ひつつあらずは」と、恋い続けるよりはいっそ別のものになりたいと願う形は、巻第二の第八十六首の磐姫皇后の歌「かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根しまきて死なましものを」と同じ型である。次歌も水泡に浮かぶ真砂になりたいと願っており、人ならぬものになりたいという趣向の二首が並べられている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「白波の」は、白く立つ波の、の意である。
 二句「来寄する島の」は、寄せてくる島の、の意である。白波が絶えず打ち寄せる島の情景を描いている。
 三句「荒礒にも」は、荒磯にでも、の意である。荒磯は岩の多い荒々しい海岸をいい、係助詞「も」によって、せめてそのようなものにでも、という気持ちを表している。
 四句「あらましものを」は、なっていればよかったのに、の意である。「まし」は反実仮想の助動詞で、「ものを」は詠嘆を込めた逆接の助詞である。ここで句切れとなる。
 結句「恋ひつつあらずは」は、恋い続けているくらいなら、の意である。「つつ」は継続、「ずは」は、〜しないで、〜よりは、の意を表し、四句と倒置になっている。

ありそ:岩の多い荒々しい海岸、荒磯
出典
万葉集
前の歌
沖つ波辺波の来寄る佐太の浦の このさだ過ぎて後恋ひむかも
次の歌
潮満てば水泡に浮かぶ真砂にも 我はなりてしか恋ひは死なずて