住吉の岸の浦廻にしく波の
しくしく妹を見むよしもがも
- 歌の意味
-
住吉の岸の浦辺に次々と寄せる波のように、しきりに妹に逢う手立てがあればよいのに。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2735
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
住吉の岸の浦辺に次々と重なって寄せる波のように、何度も繰り返し恋人に逢う手立てがあればよいのに、と願った恋の歌である。絶え間なく寄せる波の姿に、逢いたいという思いの切実さを重ねている。
物に寄せて思ひを陳ぶ歌として、住吉の浦に寄せる波に寄せた歌である。「しく波の」から「しくしく」へと同じ音を重ねて導く技巧が、波の重なりと逢瀬を重ねたい願いとを一つに結んでいる。前歌までの人ならぬものになりたいという嘆きから、本歌では逢うことへの願いへと転じている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「住吉の」は、住吉の、の意である。「すみのえ」と読み、現在の大阪市住吉区一帯の海辺をいう。
二句「岸の浦廻に」は、岸の浦辺に、の意である。
三句「しく波の」は、次々と重なって寄せる波の、の意である。初句からここまでが序詞となり、「しく」の同じ音を繰り返して「しくしく」を導いている。
四句「しくしく妹を」は、しきりに妹を、の意である。「しくしく」は重ねて絶え間なく、の意で、「妹」は男性が恋人を親しんで呼ぶ語である。
結句「見むよしもがも」は、逢う手立てがあればよいのに、の意である。「見る」は逢う意、「よし」は手段、「もがも」は願望の終助詞で、切実な願いで歌を結んでいる。
しく:重なる、次々と後から寄せる
よし:手段、方法、手がかり
いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
潮満てば水泡に浮かぶ真砂にも 我はなりてしか恋ひは死なずて
- 次の歌
-
風をいたみいたぶる波の間なく 我が思ふ君は相思ふらむか