なかなかに君に恋ひずは比良の浦の
海人ならましを玉藻刈りつつ
- 歌の意味
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なまじっかあなたに恋して苦しむくらいなら、いっそ比良の浦の海人であればよかったのに。玉藻を刈りながら。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2743
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
なまじあなたに恋をして苦しむよりは、比良の浦で玉藻を刈って暮らす海人であったほうがよかったと嘆いた恋の歌である。恋の苦しさから逃れたい思いを、恋を知らずに働く海人の暮らしへの憧れとして表している。
万葉集巻第十一の寄物陳思の歌で、海人と玉藻という海辺の物に寄せて思いを述べている。前歌が塩を焼く海人の煙に寄せて辛い恋を詠んだのに続き、本歌も海人を詠み、海辺の物に寄せる歌がこの辺りに並んでいる。
左注には「或本歌曰」として、比良の浦を縄の浦とし、結句を「玉藻刈る刈る」とする別伝の歌が記されている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「なかなかに」は、なまじっか、中途半端に、の意である。三句以下の「ましを」と呼応し、かえってこうであればよかったという反実仮想の嘆きを導いている。
二句「君に恋ひずは」は、あなたに恋していないで、の意である。「ずは」は打消の助動詞「ず」に係助詞「は」が付いた形で、恋して苦しむくらいなら、という気持ちを表している。
三句「比良の浦の」は、琵琶湖の西岸、比良山の麓の湖岸をいう。地名を出すことで、海人の暮らしを具体的に思い描かせている。
四句「海人ならましを」は、海人であったらよかったのに、の意である。「まし」は反実仮想の助動詞で、「を」は詠嘆を込めた逆接の助詞である。ここで意味の上では一首が言い切られている。
結句「玉藻刈りつつ」は、玉藻を刈りながら、の意である。四句に添える形の倒置的な結句で、恋を知らずに働く海人の姿を描いて歌を閉じている。「つつ」は動作の継続を表す。
あま:海や湖で漁をしたり藻を刈ったりして暮らす人
たまも:美しい藻。「玉」は美称
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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志賀の海人の煙焼き立て焼く塩の 辛き恋をも我れはするかも
- 次の歌
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なかなかに君に恋ひずは縄の浦の 海人にあらましを玉藻刈る刈る