浅茅原刈り標さして空言も
寄そりし君が言をし待たむ
- 歌の意味
-
浅茅原に刈って標を立てるように、根も葉もない噂であっても私と結びつけて言われたあなたの、その言葉を待とう。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2755
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
根拠のない噂であっても、私と結びつけて人に言われたあなたなのだから、あなたの口から出る言葉を待とうと詠んだ女性の恋の歌である。噂ばかりが先に立つ間柄に揺れながらも、相手のまことの言葉を待ち続けようとする思いを表している。
浅茅原に立てる標という物に寄せた寄物陳思の歌である。後の第二千七百五十九首も「君をし待たむ」と結んでおり、本歌の「言をし待たむ」と同じく、女性が相手を待とうと詠む結句を共有している。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「浅茅原」は、丈の低い茅が一面に生えた野原である。刈っても収穫の乏しい荒れた野をいう。
二句「刈り標さして」は、草を刈って占有のしるしの標を立てて、の意である。初句からここまでが序詞で、浅茅原に標を立てても実りのない占有にすぎないことから、三句の「空言」を導くとされる。
三句「空言も」は、根も葉もない言葉も、の意である。係助詞「も」によって、たとえ空言であっても、という気持ちを表している。
四句「寄そりし君が」は、噂によって私と結びつけられたあなたの、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
結句「言をし待たむ」は、あなたの言葉を待とう、の意である。「し」は強意の副助詞で、「む」は意志を表す助動詞である。噂ではない相手自身の言葉を待つ思いを強く言い留めている。
あさぢはら:丈の低い茅が生えた野原
しめ:土地などの占有を示すしるし
むなこと:根拠のない言葉、うその噂
よそる:噂などによって人と関係づけられる
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
朝柏潤八川辺の小竹の芽の 偲ひて寝れば夢に見えけり
- 次の歌
-
月草の借れる命にある人を いかに知りてか後も逢はむと言ふ