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大君の御笠に縫へる有間菅
ありつつ見れど事なき我妹

歌の意味
大君のお笠に縫ってある有間菅、その「あり」のように、ずっと見続けているけれども、何の難もないいとしい人よ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2757

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 いつも見続けているけれども、少しも欠点の見えないいとしい人よと、恋人のすばらしさをたたえた恋の歌である。大君の笠に用いられるほどの立派な有間の菅を序とし、恋人を見飽きることのない思いを表している。
 有間菅という物に寄せた寄物陳思の歌で、前歌の月草に続いて草が詠まれている。次歌は「菅の根の」、後の第二千七百六十一首は「岩本菅の」と、菅に寄せる歌がこの辺りに並んでいる。本歌は、恋人を見続けても難がないとたたえる男性の歌で、前の二首の女性の歌と並んでいる。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「大君の」は、天皇の、の意である。笠の持ち主を大君とすることで、二句以下の菅の立派さを示している。
 二句「御笠に縫へる」は、お笠に縫ってある、の意である。「る」は存続の助動詞「り」の連体形で、菅が笠に編み込まれている状態をいう。
 三句「有間菅」は、摂津の有間(現在の兵庫県神戸市北区有馬の辺り)に生える菅である。初句からここまでが序詞で、「有間」の「あり」の音から四句の「ありつつ」を導いている。
 四句「ありつつ見れど」は、このままずっと見続けているけれども、の意である。「つつ」は継続を表し、「ど」は逆接の助詞である。
 結句「事なき我妹」は、何の難もないいとしい人よ、の意である。「事なし」はここでは欠点や支障のないことをいう。「我妹」で終える体言止めの句で、恋人への呼びかけの響きを持たせている。

すげ:笠や蓑の材料とした草
わぎも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
出典
万葉集
前の歌
月草の借れる命にある人を いかに知りてか後も逢はむと言ふ
次の歌
菅の根のねもころ妹に恋ふるにし 大夫心思ほえぬかも