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菅の根のねもころ妹に恋ふるにし
大夫心思ほえぬかも

歌の意味
菅の根のように、心をこめてひたすらにいとしい人に恋しているので、ますらおらしい雄々しい心も、もう思い起こされないことだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2758

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 ひたすらに恋人を恋い慕っているので、男子としての雄々しい心もすっかり失われてしまったと嘆いた恋の歌である。ますらおを自負する男性が、恋のために弱々しくなった自分を見つめている。
 菅の根という物に寄せた寄物陳思の歌で、前歌の有間菅に続いて菅が詠まれている。後の第二千七百六十一首も「岩本菅の根深くも」と菅の根を詠んでおり、本歌の「ねもころ」と同じく、根のありさまを恋の思いの深さに重ねている。恋のために大夫心を失うという嘆きは、万葉集の男性の恋の歌にしばしば見られる趣向である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「菅の根の」は、「ねもころ」にかかる枕詞である。菅の根が細かく長く張ることと、「ね」の音の重なりによって続いている。
 二句「ねもころ妹に」は、心をこめてねんごろにいとしい人に、の意である。「ねもころ」は、細やかに心を尽くすさまをいう。
 三句「恋ふるにし」は、恋しているので、の意である。「に」は原因を表す格助詞、「し」は強意の副助詞である。
 四句「大夫心」は、ますらおらしい雄々しく勇ましい心である。立派な男子としての誇りを込めた語である。
 結句「思ほえぬかも」は、思い起こされないことだ、の意である。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形で、終助詞「かも」が詠嘆を込めて結んでいる。恋に心を奪われ、雄々しい心を保てなくなった嘆きを表している。

ねもころ:細やかに心を尽くすさま。ねんごろ
ますらを:立派で勇ましい男子
出典
万葉集
前の歌
大君の御笠に縫へる有間菅 ありつつ見れど事なき我妹
次の歌
我が宿の穂蓼古幹摘み生し 実になるまでに君をし待たむ