葦垣の中の和草にこやかに
我れと笑まして人に知らゆな
- 歌の意味
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葦垣の中のにこ草のように、にこやかに私とほほえみ交わしなさって、人に知られないようにしてほしい。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2762
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
葦垣の内側に生える柔らかなにこ草のように、にこやかに私とほほえみ交わしてほしい、けれどもそれを人に知られないでほしいと願う歌である。親しく笑みを交わしたい気持ちと、二人の仲を人目から隠したい気持ちとが一首の中に同居している。
物に寄せて思ひを陳ぶの部立の歌で、草に寄せる一連の中にある。にこ草の柔らかさを、相手のやさしい笑顔に重ねたところに趣向がある。前歌の奥山の岩本菅が思いの深さを表したのに対し、本歌は人目を忍ぶ恋の明るい一面を詠んでいる。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「葦垣の」は、葦を編んで作った垣の意である。家の囲いを示し、その内側という限られた場所を思わせる。
二句「中の和草」は、垣の内に生える柔らかな草、にこ草をいう。初句からここまでが序詞で、「にこ」の音の繰り返しによって次の「にこやかに」を導いている。
三句「にこやかに」は、穏やかにほほえむさまをいう。序詞から転じて、ここからが歌の本旨となる。
四句「我れと笑まして」は、私とほほえみ交わしなさっての意である。「笑まし」は「笑む」に尊敬の助動詞「す」が付いた形で、相手への親しみと敬意を込めている。
結句「人に知らゆな」は、人に知られないでの意である。「ゆ」は上代の受身の助動詞、「な」は禁止の終助詞で、二人の仲を秘めておきたい思いで結んでいる。
あしかき:葦を編んで作った垣
にこぐさ:柔らかな草。若草の類とされる
ゑむ:ほほえむ
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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奥山の岩本菅の根深くも 思ほゆるかも我が思ひ妻は
- 次の歌
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紅の浅葉の野らに刈る草の 束の間も我を忘らすな