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妹がため命残せり刈り薦の
思ひ乱れて死ぬべきものを

歌の意味
妹のために命を残しているのだ。刈り取った薦のように思い乱れて、死んでしまうはずのところなのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2764

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 恋の思いに乱れて死んでしまってもおかしくないのに、妹のために命を長らえているのだと述べる歌である。死ぬほどの恋の苦しさを訴えながら、それでも愛する人のために生きているという男の真情が表れている。
 刈り取った薦が乱れ散る様子を心の乱れに重ねる、薦に寄せる歌である。次歌の第二千七百六十五首とは三句以下の「刈り薦の思ひ乱れて死ぬべきものを」がまったく同じで、本歌が妹のために命を残すというのに対し、次歌は恋い続けるよりは死んだほうがましだと詠み、同じ下の句を正反対の心で用いた対となっている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「妹がため」は、妹のためにの意である。「妹」は男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語で、命を保つ理由をまず示している。
 二句「命残せり」は、命を残しているの意で、ここで句切れとなる。「り」は存続の助動詞で、死なずに生き続けている今の状態をいう。
 三句「刈り薦の」は、刈り取った薦が乱れやすいことから「乱る」にかかる枕詞である。物に寄せる部立の歌として、薦の姿を心の乱れに重ねている。
 四句「思ひ乱れて」は、思いが乱れての意である。枕詞を受けて、恋に心を乱す苦しさを表している。
 結句「死ぬべきものを」は、死んでしまうはずなのにの意である。「べし」は当然の助動詞、「ものを」は逆接の詠嘆を表し、二句の「命残せり」へと思いを返している。

こも:水辺に生える草、真菰。筵などに編む
のこす:後に残す。ここでは命を保つ
出典
万葉集
前の歌
紅の浅葉の野らに刈る草の 束の間も我を忘らすな
次の歌
我妹子に恋つつあらずは刈り薦の 思ひ乱れて死ぬべきものを