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あしひきの山橘の色に出でて
我は恋なむを人目難みすな

歌の意味
山橘の赤い実のように、はっきりと表に出して私は恋をしよう。だから人目をはばかってためらうな。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2767

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 山橘の赤い実がはっきり目に立つように、私は思いを表に出して恋をするつもりだから、あなたも人目を気にしてためらわないでほしいと呼びかける歌である。人目を忍ぶ恋の歌が多い中で、恋を隠さずに貫こうとする強い決意が示されている。
 前歌までの草に寄せる歌から、山橘という木の実に寄せる歌へと移る。冬に赤く色づく山橘の実の鮮やかさを、表に現れる恋心に重ねた点に趣向がある。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。山の情景を導き出し、歌の調子を整えている。
 二句「山橘の」は、山に生えるやぶこうじのことで、冬に赤い実をつける。初句からここまでが序詞で、実の色が目立つことから次の「色に出でて」を導いている。
 三句「色に出でて」は、思いを顔色や態度に表しての意である。六音の字余りで、恋を隠さない思いを強く打ち出している。
 四句「我は恋なむを」は、私は恋をしようものをの意である。「な」は強意の助動詞「ぬ」の未然形、「む」は意志を表し、「を」は接続助詞として次の句へ思いをつないでいる。
 結句「人目難みすな」は、人目がはばかられるとしてためらうなの意である。「難み」は形容詞「難し」の語幹に「み」が付いた形、「な」は禁止の終助詞で、相手に強く呼びかけて結んでいる。

やまたちばな:やぶこうじ。冬に赤い実をつける常緑の小低木
ひとめ:人の見る目、世間の目
出典
万葉集
前の歌
三島江の入江の薦を刈りにこそ 我れをば君は思ひたりけれ
次の歌
葦鶴の騒く入江の白菅の 知らせむためと言痛かるかも