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さす竹の世隠りてあれ我が背子が
我がりし来ずは我れ恋めやも

歌の意味
さす竹の節の中に籠もるように、家に籠もっていてほしい。あなたが私のもとに来さえしなければ、私がこんなに恋に苦しんだりするだろうか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2773

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 あなたが私のもとに通って来なければ、こんなに恋に苦しむこともなかったのだから、いっそ家に籠もっていてほしいと、恋の苦しさから相手に恨み言を言う女の歌である。来てほしくないと言いながら、実は恋の深まりを打ち明けているところに、屈折した心のあやがある。
 竹に寄せる歌で、竹の節の内側が閉ざされていることを、人目から隠れて籠もることに重ねている。前歌までの小菅に寄せる歌から、竹に寄せる歌へと移っている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「さす竹の」は、竹の節を「よ」ということから「世」にかかる枕詞である。物に寄せる部立として、竹の姿を歌の初めに置いている。
 二句「世隠りてあれ」は、世間から隠れて籠もっていなさいの意である。「あれ」は「あり」の命令形で、ここで句切れとなる。
 三句「我が背子が」は、私のいとしい方がの意である。「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語で、女の歌であることを示している。
 四句「我がりし来ずは」は、私のもとに来なかったならばの意である。「がり」は人のもとを表す語、「し」は強意の副助詞、「ずは」は打消の仮定条件を表している。
 結句「我れ恋めやも」は、私が恋に苦しんだりするだろうか、いやしないの意である。「めやも」は推量の「む」の已然形「め」に反語の「や」と詠嘆の「も」が付いた形で、恋の苦しさを相手のせいにして結んでいる。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
がり:人のいるところ、もと
よごもる:世間から隠れて籠もる
出典
万葉集
前の歌
真野の池の小菅を笠に縫はずして 人の遠名を立つべきものか
次の歌
神奈備の浅小竹原のうるはしみ 我が思ふ君が声のしるけく