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水底に生ふる玉藻の生ひ出でず
よしこのころはかくて通はむ

歌の意味
水の底に生える玉藻が水面に出てこないように、思いを表には出すまい。ままよ、このごろはこうして人目を忍んで通おう。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2778

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 水底の藻が水面に出ないように、恋心を表には出さず、しばらくはこのまま人目を忍んで通い続けようと心に決める歌である。噂を恐れながらも逢うことはやめないという、ひそやかな恋の覚悟が示されている。
 前歌までの陸の草から、水の中の玉藻に寄せる歌へと移る。前歌が通いの途絶えを恨んだのに対し、本歌は人目を避けながら通い続けようとする歌で、通うことをめぐる歌が続いている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「水底に」は、水の底にの意である。人の目の届かない深い所を示し、秘めた恋の思いを暗示している。
 二句「生ふる玉藻の」は、生えている美しい藻のの意である。「玉」は美称で、初句からここまでが序詞となり、次の「生ひ出でず」を導いている。
 三句「生ひ出でず」は、藻が水面に生え出ないように、思いを表に出さないの意である。序詞を受けて恋心を秘めることを表し、ここで句切れとなる。
 四句「よしこのころは」は、ままよ、このごろはの意である。「よし」は不満足ながら許容する気持ちを表す語で、ひとまず割り切る心を示している。
 結句「かくて通はむ」は、こうして通っていこうの意である。「かくて」は人目を忍ぶ今のありさまを指し、「む」は意志の助動詞で、ひそかに通い続ける決意を述べて結んでいる。

たまも:藻の美称
おひいづ:生え出る
出典
万葉集
前の歌
畳薦へだて編む数通はさば 道の芝草生ひずあらましを
次の歌
海原の沖つ縄海苔うち靡き 心もしのに思ほゆるかも