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隠り津の沢たつみなる岩根ゆも
通してぞ思ふ君に逢はまくは

歌の意味
人目につかない沢の溜まり水の中にある岩根さえも貫き通すほどの思いで思っている。あなたに逢うことは。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2794

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 あなたに逢うことを、隠れた沢の水の中にある岩さえも貫き通すほどの強い思いで願っていると詠んだ女の歌である。岩をも通す一途な思いを、人目につかない沢の水に重ね、ひそかではあるが固い恋の決意を表している。
 前歌までの「玉の緒」の一連を受け、本歌は水と岩に寄せて思いを述べている。「隠り津」の語に人目を忍ぶ恋の心がにじみ、前歌が緒を貫く玉を詠んだのに対し、本歌は岩をも貫く思いを詠んでおり、「貫く」趣向が通い合っている。なお二句は難解で、解釈には諸説がある。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「隠り津の」は、隠れた水辺のの意で、人目につかない沢や沼をいう。人目を忍ぶ恋の心を重ねている。
 二句「沢たつみなる」は、沢の溜まり水の中にあるの意と解されるが、語義には諸説がある。「なる」は存在を表す助動詞「なり」の連体形である。
 三句「岩根ゆも」は、岩根をさえ通ってもの意である。「岩根」はどっしりと根を張った大きな岩、「ゆ」は経由を表す格助詞で、係助詞「も」によって岩でさえもと強めている。
 四句「通してぞ思ふ」は、貫き通すほどの思いで思っているの意である。係助詞「ぞ」を受けて「思ふ」が連体形で結ぶ係り結びとなっており、ここで句切れとなる。
 結句「君に逢はまくは」は、あなたに逢うことはの意である。「逢はまく」は「逢はむ」のク語法で、四句と倒置の関係にあり、思いの向かう先を最後に明かしている。

こもりづ:人目につかない、隠れた水辺
いはね:大地に根を張ったような大きな岩
とほす:貫き通す
出典
万葉集
前の歌
玉の緒の間も置かず見まく欲り 我が思ふ妹は家遠くありて
次の歌
紀の国の飽等の浜の忘れ貝 我れは忘れじ年は経ぬとも