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紀の国の飽等の浜の忘れ貝
我れは忘れじ年は経ぬとも

歌の意味
紀伊の国の飽等の浜の忘れ貝のように忘れることなど、私は決してしない。たとえ年は過ぎても。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2795

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 紀伊の国の飽等の浜にある忘れ貝の名に寄せて、自分はあなたを決して忘れはしない、何年たとうともと誓った歌である。恋を忘れさせるという貝の名を逆手にとって、忘れない心を強く打ち出している。
 本歌から貝に寄せる歌が続き、本巻の第二千七百九十八首まで、貝を序詞に用いて恋を詠む一連となっている。本歌の「年は経ぬとも」と次歌の「年は経につつ」は同じ語句を共有しており、年月を越えて忘れない誓いと、片恋のまま年月が過ぎていく嘆きとが並べられている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「紀の国の」は、紀伊の国のの意で、現在の和歌山県にあたる。初句から三句までが、「忘れ貝」の「忘れ」の音を繰り返して「忘れじ」を導く序詞である。
 二句「飽等の浜の」は、紀伊の国の飽等の浜のの意である。所在ははっきりしない。
 三句「忘れ貝」は、二枚貝の片方の殻、または拾うと恋の苦しさを忘れるとされた貝をいう。名詞で言い切り、下の「忘れじ」へと音で続けている。
 四句「我れは忘れじ」は、私は忘れまいの意である。「じ」は打消意志の助動詞で、係助詞「は」によって、忘れ貝とは違う自分の心を取り立てている。ここで句切れとなる。
 結句「年は経ぬとも」は、年は過ぎてしまってもの意である。「ぬ」は完了の助動詞、「とも」は逆接の仮定条件で、四句と倒置の関係にあり、長い年月を越えて変わらない誓いを示している。次歌の結句「年は経につつ」と同じ語句を共有している。

わすれがひ:二枚貝の離れた片方の殻。拾うと恋の苦しさを忘れるとされた
ふ:時が経つ、過ぎる
出典
万葉集
前の歌
隠り津の沢たつみなる岩根ゆも 通してぞ思ふ君に逢はまくは
次の歌
水くくる玉に交じれる磯貝の 片恋ひのみに年は経につつ