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我妹子に恋ふれにかあらむ沖に棲む
鴨の浮寝の安けくもなし

歌の意味
恋しい人に恋をしているからであろうか。沖に棲む鴨の浮寝のように、心の安らぐこともない。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2806

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 恋しい人を思っているからだろうか、沖に棲む鴨が波に浮いて寝るように、少しも心が安らがないと詠む男の歌である。波間に揺られて眠る鴨の姿に、恋に心を揺さぶられて落ち着いて眠れない自身を重ねている。
 鳥に寄せた歌の一連の一首で、前歌の鶴に続いて水鳥の鴨を詠む。水に浮いたまま眠る「浮寝」は、落ち着かない不安な眠りを思わせる語として、後の和歌にも多く用いられた。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「我妹子に」は、恋しいあなたに、の意である。「我妹子」は男が恋人や妻を親しんで呼ぶ語で、男の歌であることがわかる。
 二句「恋ふれにかあらむ」は、恋しているからであろうか、の意である。係助詞「か」を受けて推量の助動詞「む」が連体形で結ぶ係り結びで、ここで二句切れとなる。心の安まらない理由を自ら問いかけている。
 三句「沖に棲む」は、沖に棲んでいる、の意で、次の「鴨」を修飾する。人の近づけない沖の水上を思わせる。
 四句「鴨の浮寝の」は、鴨が水に浮いたまま寝ることの、の意である。三句からこの句までが序詞で、鴨の浮寝の不安定なさまから次の「安けくもなし」を導いている。
 結句「安けくもなし」は、安らかなこともない、の意である。「安けく」は形容詞「安し」のク語法で、安らかなこと、の意である。係助詞「も」によって少しの安らぎもないことを強めている。

わぎもこ:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
うきね:水鳥が水に浮いたまま寝ること
出典
万葉集
前の歌
伊勢の海ゆ鳴き来る鶴の音どろも 君が聞こさば我れ恋ひめやも
次の歌
明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の 君が手枕いまだ飽かなくに