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明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の
君が手枕いまだ飽かなくに

歌の意味
夜が明けてしまいそうに、千鳥がしきりに鳴いている。あなたの手枕には、まだ満ち足りていないのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2807

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 夜明けが近いことを告げるように千鳥がしきりに鳴くが、あなたの腕を枕にした共寝にはまだ満ち足りていないと、別れの朝を惜しむ女の歌である。逢瀬の時間の短さを嘆き、夜明けを恨む心が率直に表されている。
 鳥に寄せた歌の一連の一首で、夜明けを知らせる鳥として千鳥を詠んでいる。本巻の第二千八百首が独り寝の夜の明けを告げる鶏の声を詠むのに対し、本歌は共寝の夜を終わらせる千鳥の声を詠んでおり、同じ夜明けの鳥の声を独り寝と共寝との両面から扱っている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「明けぬべく」は、夜が明けてしまいそうに、の意である。「ぬ」は完了の助動詞、「べく」は推量の助動詞「べし」の連用形で、今にも夜が明けそうな切迫した様子を表す。
 二句「千鳥しば鳴く」は、千鳥がしきりに鳴く、の意である。「しば」はしきりに、たびたびの意で、ここで二句切れとなる。
 三句「白栲の」は、白い栲の布の意から「袖」「衣」「手枕」などにかかる枕詞である。ここでは「手枕」を導いている。
 四句「君が手枕」は、あなたの腕を枕にすること、の意である。「君」は女が男を呼ぶ語で、女の歌であることがわかる。
 結句「いまだ飽かなくに」は、まだ満ち足りていないのに、の意である。「飽く」は十分に満足する意で、「なくに」は打消の助動詞「ず」のク語法に助詞「に」が付いた形である。三句以下は二句までと倒置の関係にあり、尽きない名残惜しさを込めて言い収めている。

しろたへ:栲の繊維で織った白い布。「しろたへの」の形で「袖」「衣」「手枕」などにかかる枕詞となる
たまくら:腕を枕にすること
あく:十分に満ち足りる
出典
万葉集
前の歌
我妹子に恋ふれにかあらむ沖に棲む 鴨の浮寝の安けくもなし
次の歌
眉根掻き鼻ひ紐解け待てりやも いつかも見むと恋ひ来し我れを