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眉根掻き鼻ひ紐解け待てりやも
いつかも見むと恋ひ来し我れを

歌の意味
眉を掻き、くしゃみをし、紐が解けて、待っていてくれたのか。いつになったら逢えるだろうかと、恋い慕いながらやって来た私を。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2808

詞書「問答」
 恋しい人に逢える前兆とされた、眉がかゆくなること、くしゃみが出ること、下紐がひとりでに解けることを並べ、それらのしるしを感じて私を待っていてくれたかと、訪ねてきた男が女に問いかける歌である。逢いたい一心でやって来た男の弾む心が伝わってくる。
 詞書の「問答」は、問いかける歌とそれに答える歌とを組にして集めた部立で、本巻の後半に置かれた問答の歌は本歌から始まる。左注に「右二首」とあるとおり次歌と一組をなし、次歌では女が、今日あなたが来るからこそくしゃみが出て眉がかゆかったのだと答えている。
 左注には「右は上に柿本朝臣人麻呂の歌の中に見ゆ。但し問答なるを以ての故に、累ねてここに載す」とあり、本巻の第二千四百八首に人麻呂歌集の歌として載る歌を、問答の組をなすために重ねて収めたことがわかる。第二千四百八首とは、三句が「待つらむか」、結句が「思へる我れを」となっている点で異なり、本歌は相手への問いかけの形がより明らかである。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「眉根掻き」は、眉を掻いて、の意である。眉がかゆくなるのは恋しい人に逢える前兆と信じられていた。
 二句「鼻ひ紐解け」は、くしゃみをし、紐が解けて、の意である。「鼻ふ」はくしゃみをすること、「紐解く」は下紐がひとりでに解けることで、いずれも人に思われている、あるいは恋人に逢えるしるしとされた。初句から三つの前兆を畳みかけている。
 三句「待てりやも」は、待っていたのか、の意である。「り」は存続の助動詞、「やも」は疑問を表し、ここで三句切れとなって相手への問いかけとなる。
 四句「いつかも見むと」は、いつになったら逢えるだろうかと、の意である。「見る」は逢う意で、係助詞「か」に「も」が添い、逢う日を待ちわびる気持ちを表している。
 結句「恋ひ来し我れを」は、恋い慕いながらやって来た私を、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、三句の「待てりやも」に対して倒置の形で目的語を示している。

まよね:眉。眉の生え際
はなふ:くしゃみをする
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の 君が手枕いまだ飽かなくに
次の歌
今日なれば鼻ひ鼻ひし眉かゆみ 思ひしことは君にしありけり