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今日なれば鼻ひ鼻ひし眉かゆみ
思ひしことは君にしありけり

歌の意味
今日であったから、くしゃみがしきりに出て、眉がかゆかったのだ。思っていたことは、あなたのことであったのだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2809

詞書は前の歌に続き「問答」
 前歌の問いに答えて、今日あなたが来るからこそ、くしゃみが続き眉がかゆかったのだ、思い当たっていたのはあなたのことだったと答える女の歌である。前兆が本当になった喜びと、相手を待ち続けていた心とが素直に表されている。
 左注の「右二首」によって前歌と一組をなす答えの歌である。前歌が「眉根掻き」「鼻ひ」と前兆を並べて問いかけたのに対し、本歌は「鼻ひ鼻ひし」「眉かゆみ」と同じ前兆をそのまま受けて答えており、問いの言葉を取り込んで応じる問答の歌の典型的な形を見せている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「今日なれば」は、今日であったから、の意である。「なれ」は断定の助動詞「なり」の已然形で、「ば」が付いて確定の理由を表す。あなたの来る日が今日だったから、という意である。
 二句「鼻ひ鼻ひし」は、くしゃみを何度もした、の意である。「鼻ふ」を重ねてくしゃみの続いたさまを表し、前歌の二句「鼻ひ紐解け」を受けている。
 三句「眉かゆみ」は、眉がかゆくて、の意である。形容詞「かゆし」の語幹に接尾語「み」が付いたミ語法で、理由を表す。前歌の初句「眉根掻き」に応じている。
 四句「思ひしことは」は、思っていたことは、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、係助詞「は」によって取り立てている。前兆が何のしるしかと思いめぐらしていたことをいう。
 結句「君にしありけり」は、あなたのことであったのだ、の意である。「し」は強めの副助詞、「けり」は気づきの詠嘆を表す助動詞で、前兆の意味に今はじめて思い至った喜びを込めている。

はなふ:くしゃみをする
出典
万葉集
前の歌
眉根掻き鼻ひ紐解け待てりやも いつかも見むと恋ひ来し我れを
次の歌
音のみを聞きてや恋ひむまそ鏡 直目に逢ひて恋ひまくもいたく