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音のみを聞きてや恋ひむまそ鏡
直目に逢ひて恋ひまくもいたく

歌の意味
噂ばかりを聞いて恋い慕うのだろうか。じかに逢って恋するのも、ひとしお激しいものであろうに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2810

詞書は前の歌に続き「問答」
 相手の噂を聞くばかりで、逢えないまま恋い慕っていなければならないのだろうか、じかに逢って恋するほうがずっと思いも深まるだろうにと、まだ逢ったことのない人に寄せる恋を詠んだ歌である。噂によって募る恋の、満たされないもどかしさが表れている。
 問答の歌で、左注の「右二首」によって次歌と一組をなす。本歌の嘆きに対し、次歌はこの言葉を聞くためだったらしい、照る月夜も闇とばかり見ていたと答えている。本歌の三句と次歌の三句とがともに枕詞「まそ鏡」を置いており、問いと答えとが同じ語で結ばれている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「音のみを」は、噂ばかりを、の意である。「音」は評判、うわさの意で、「のみ」はそれだけに限る意を表す。
 二句「聞きてや恋ひむ」は、聞いて恋い慕うのだろうか、の意である。係助詞「や」を受けて推量の助動詞「む」が連体形で結ぶ係り結びで、ここで二句切れとなる。
 三句「まそ鏡」は、よく澄んだ鏡のことで、鏡はじかに見るものであることから次の「直目」にかかる枕詞である。次歌の三句にも同じ「まそ鏡」が置かれている。
 四句「直目に逢ひて」は、じかに目で見て逢って、の意である。「直目」は直接自分の目で見ることをいい、初句の「音」と対比されている。
 結句「恋ひまくもいたく」は、恋することも甚だしく、の意である。「恋ひまく」は「恋ふ」に推量の助動詞「む」のク語法が付いた形で、恋するであろうこと、の意である。「いたく」と連用形で言いさして、余情を残している。

おと:評判、うわさ
ただめ:直接自分の目で見ること
まそかがみ:よく澄んだ鏡。「見る」「照る」などにかかる枕詞となる
出典
万葉集
前の歌
今日なれば鼻ひ鼻ひし眉かゆみ 思ひしことは君にしありけり
次の歌
この言を聞かむとならしまそ鏡 照れる月夜も闇のみに見つ