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この言を聞かむとならしまそ鏡
照れる月夜も闇のみに見つ

歌の意味
この言葉を聞こうとしてのことであったらしい。照り輝く月夜でさえ、闇とばかり見ていたのは。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2811

詞書は前の歌に続き「問答」
 照り輝く月夜さえも闇としか見えないほどに沈んでいたのは、あなたのこの言葉を聞くためであったらしいと答える歌である。前歌の恋の言葉を受け、それまでの晴れない心が報われた喜びを詠んでいる。
 左注の「右二首」によって前歌と一組をなす答えの歌である。前歌の三句の「まそ鏡」を同じ三句に受け、前歌がこの枕詞で「直目」を導いたのに対し、本歌では「照れる」を導いている。前歌の噂とじかに見ることとの対比を、本歌は明るい月夜と闇との対比で受けている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「この言を」は、この言葉を、の意である。前歌で相手が述べた恋の言葉を指している。
 二句「聞かむとならし」は、聞こうとしてのことであるらしい、の意である。「ならし」は断定の助動詞「なり」に推定の助動詞「らし」が付いた「なるらし」のつづまった形で、根拠のある推定を表す。ここで二句切れとなり、以下と倒置の関係にある。
 三句「まそ鏡」は、よく澄んだ鏡のことで、鏡が照り輝くことから「照る」にかかる枕詞である。前歌の三句と同じ語を置いて応じている。
 四句「照れる月夜も」は、照り輝いている月夜も、の意である。「る」は存続の助動詞「り」の連体形、「月夜」は月、または月の明るい夜をいう。
 結句「闇のみに見つ」は、闇とばかり見ていた、の意である。「のみ」は限定、「つ」は完了の助動詞で、恋の物思いに沈んで明るい月夜も心に映らなかったことを表している。

まそかがみ:よく澄んだ鏡。「見る」「照る」などにかかる枕詞となる
つくよ:月。また月の明るい夜
出典
万葉集
前の歌
音のみを聞きてや恋ひむまそ鏡 直目に逢ひて恋ひまくもいたく
次の歌
我妹子に恋ひてすべなみ白栲の 袖返ししは夢に見えきや