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かきつはた佐紀沼の菅を笠に縫ひ
着む日を待つに年ぞ経にける

歌の意味
佐紀沼の菅を笠に縫って、それをかぶる日を待っているうちに、年が経ってしまった。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2818

詞書は前の歌に続き「問答」
 佐紀沼の菅を笠に縫い、それをかぶる日を待っているうちに年月が過ぎてしまったと詠む歌である。笠を縫うことは相手と契りを交わすことを、笠をかぶる日はその人と結ばれる日を喩えたものと解され、約束を交わしながら共に暮らせる日が来ないまま年が過ぎた嘆きを、菅笠に託して述べている。
 問答の歌で、左注の「右二首」によって次歌と一組をなす。次歌は難波の菅笠を詠み、置いたままにして古びさせ、後で誰がかぶるという笠でもないのにと答えており、笠をかぶる日を待つ本歌の嘆きを、置かれて古びる笠の側から受けている。両首とも笠を人に喩えた譬喩の趣向をもつ問答である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「かきつはた」は、杜若の花が咲くことから、「咲き」と同音の地名「佐紀」にかかる枕詞である。
 二句「佐紀沼の菅を」は、佐紀沼に生える菅を、の意である。佐紀沼は大和国の佐紀、今の奈良市北部の佐紀町あたりにあった沼で、菅は笠や蓑を編む材料となる草である。
 三句「笠に縫ひ」は、笠に縫い上げて、の意である。菅を笠に仕立てることに、相手と契りを結ぶことを重ねている。
 四句「着む日を待つに」は、かぶる日を待っているうちに、の意である。「む」は推量の助動詞の連体形で、まだ来ない日を待つことを表す。笠をかぶる日は、契った人と結ばれる日を喩えている。
 結句「年ぞ経にける」は、年が過ぎてしまった、の意である。係助詞「ぞ」を受けて過去の助動詞「けり」が連体形「ける」で結ぶ係り結びで、待つうちに過ぎた歳月への嘆きを込めている。

かきつはた:杜若。花が咲くことから「佐紀」にかかる枕詞ともなる
すげ:カヤツリグサ科の草。笠や蓑の材料とする
出典
万葉集
前の歌
うらぶれて物は思はじ水無瀬川 ありても水は行くといふものを
次の歌
おしてる難波菅笠置き古し 後は誰が着む笠ならなくに