おしてる難波菅笠置き古し
後は誰が着む笠ならなくに
- 歌の意味
-
難波の菅笠を、置いたまま古びさせて。後になって誰かほかの人がかぶるような笠ではないのに。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2819
詞書は前の歌に続き「問答」
難波の菅笠を使わずに置いたまま古びさせているが、後になって他の誰かがかぶるような笠ではないのにと、相手を恨む歌である。笠は自分自身の喩えで、契りを交わしながら放っておかれ、年を重ねていく身のつらさと、相手以外の誰のものにもならないという思いが込められている。
左注の「右二首」によって前歌と一組をなす答えの歌である。前歌が菅笠をかぶる日を待つうちに年が経ったと詠んだのに対し、本歌は、置いたまま古びさせているのはあなたではないかと、笠の側から恨みを込めて答えている。前歌の「佐紀沼の菅」に対して「難波菅笠」と別の土地の菅を出し、ともに初句に枕詞を置く点でも対応している。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「おしてる」は「難波」にかかる枕詞である。難波の海に日が一面に照り輝くさまからかかるとされる。四音の句で、字足らずとなっている。
二句「難波菅笠」は、難波の菅で編んだ笠の意である。難波の入江は菅の産地として知られていた。
三句「置き古し」は、使わずに置いたまま古びさせて、の意である。笠に自分を喩え、契りながら顧みられずに年を重ねる身を表している。ここで三句切れとなる。
四句「後は誰が着む」は、後になって誰がかぶるだろうか、の意である。「む」は推量の助動詞で、自分を顧みる者がほかにいないことを言い表している。
結句「笠ならなくに」は、笠ではないのに、の意である。「なくに」は打消の助動詞「ず」のク語法に助詞「に」が付いた形で、あなた以外の誰がかぶる笠でもないのにと、恨みを込めて言い収めている。
おしてる:「難波」にかかる枕詞
すがかさ:菅で編んだ笠
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
かきつはた佐紀沼の菅を笠に縫ひ 着む日を待つに年ぞ経にける
- 次の歌
-
かくだにも妹を待ちなむさ夜更けて 出で来し月のかたぶくまでに