古典和歌stream

木の間より移ろふ月の影を惜しみ
立ち廻るにさ夜更けにけり

歌の意味
木々の間を移っていく月の光を惜しんで、行きつ戻りつしているうちに、夜が更けてしまった。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2821

詞書は前の歌に続き「問答」
 木々の間を移ろっていく月の光を惜しんで、あたりを行きつ戻りつしているうちに、夜が更けてしまったと詠んだ歌である。月の美しさに心をひかれてためらううちに時が過ぎたことを述べ、逢いに行くのが遅くなったわけを相手に伝える形になっている。
 「問答」の部立に収められ、左注「右二首」によって前歌の第二千八百二十首と一組をなす答えの歌である。前歌が、夜更けに出た月が傾くまで妹を待とうと詠んだのに対し、本歌は同じ月と夜更けを詠み込んで、待たせることになった事情を答えている。待つ側と待たせる側とが、ひとつの月夜を挟んで向き合う問答である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「木の間より」は、木々の間を通しての意である。「より」は経由する所を示す格助詞で、枝葉の間から漏れてくる月の光を思わせる句である。
 二句「移ろふ月の」は、次第に移っていく月の意である。「移ろふ」は「移る」に継続の「ふ」が付いた語で、月が空を渡って位置を変えていくさまを表し、前歌の「出で来し月のかたぶくまでに」と月の移りゆきで応じている句である。
 三句「影を惜しみ」は、月の光が惜しいのでの意である。「影」は光をいい、「名詞+を+形容詞の語幹+み」の形で理由を表す。六音の字余りである。
 四句「立ち廻るに」は、あちこちと行きつ戻りつしているうちにの意である。「に」は、その間に事態が進んだことを示す働きをしている。
 結句「さ夜更けにけり」は、夜が更けてしまったことだの意である。「さ」は接頭語、「にけり」は完了の助動詞「ぬ」に詠嘆の「けり」が付いた形で、気がつけば夜が更けていたという思いを表し、前歌の「さ夜更けて」と同じ語で応じている句である。

たちもとほる:あちこち歩きまわる、行きつ戻りつする
さよ:夜。「さ」は接頭語
かげ:光。ここでは月の光
出典
万葉集
前の歌
かくだにも妹を待ちなむさ夜更けて 出で来し月のかたぶくまでに
次の歌
栲領布の白浜波の寄りもあへず 荒ぶる妹に恋ひつつぞ居る