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栲領布の白浜波の寄りもあへず
荒ぶる妹に恋ひつつぞ居る

歌の意味
白浜の波が寄りきれずに荒れるように、私に寄りつこうともせずつれなくする妹に、私は恋い続けているのだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2822

詞書は前の歌に続き「問答」
 白浜に寄せる波が寄りきらずに荒れるように、自分に寄りつこうとせずつれなくする恋人に、それでも恋い続けていると訴えた歌である。波の荒々しさに相手のよそよそしさを重ね、報われない思いを抱き続ける男の嘆きを表している。
 左注「右二首」によって次歌の第二千八百二十三首と一組をなす問いの歌である。次歌は同じ「栲領巾の白浜波の」を用いて、寄りつかないのはかえってあなたのほうだと言い返しており、波の寄る寄らぬをめぐって男女が互いを責め合う問答になっている。
 なお原文には結句を「恋ふるころかも」とする異伝が注記されている。ここでは本文の「恋ひつつぞ居る」を採った。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「栲領布の」は、「白」にかかる枕詞である。栲の繊維で織った領布が白いことから、白浜の白さを言い起こしている句である。
 二句「白浜波の」は、白い砂浜に寄せる波の意である。初句と二句が序詞となって「寄り」を導き、「の」は「~のように」と比喩を表す働きをしている。
 三句「寄りもあへず」は、寄りきることもできずにの意である。波が浜に寄せきらずに砕けるさまと、恋人が自分に寄りつこうとしないさまとを重ねている。六音の字余りである。
 四句「荒ぶる妹に」は、うちとけずにつれなくふるまう妹にの意である。「荒ぶる」は波の荒れるさまとも響き合い、序の情景と恋人の態度とを結びつけている句である。
 結句「恋ひつつぞ居る」は、恋い続けているの意である。「つつ」は継続を表し、係助詞「ぞ」を受けて「居る」と連体形で結ぶ係り結びである。

たくひれ:栲の繊維で織った白い領布。「栲領布の」で「白」にかかる枕詞となる
あふ:動詞の下に付いて、すっかり~しきる意。打消を伴い、~しきれない意となる
あらぶ:荒れる。人に対してうちとけず、よそよそしくふるまう
出典
万葉集
前の歌
木の間より移ろふ月の影を惜しみ 立ち廻るにさ夜更けにけり
次の歌
かへらまに君こそ我れに栲領巾の 白浜波の寄る時もなき