思ふ人来むと知りせば八重葎
覆へる庭に玉敷かましを
- 歌の意味
-
思う人が来ると知っていたなら、八重葎が覆い茂っている庭に、玉を敷いておいたものを。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2824
詞書は前の歌に続き「問答」
恋しい人が来ると前もって知っていたなら、葎の生い茂る荒れた庭に玉を敷きつめて迎えたのに、と詠んだ女の歌である。思いがけない訪れを喜びながら、みすぼらしい住まいで迎えることを恥じらう気持ちが込められている。
左注「右二首」によって次歌の第二千八百二十五首と一組をなす問いの歌である。次歌は「玉敷ける家も何せむ」と本歌の言葉を受け、葎に覆われた小屋でも妹と一緒ならよいと答えている。玉を敷いた庭と葎に覆われた住まいという対比が、問答の両首を貫いている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「思ふ人」は、心に思う人、恋しい人の意である。相手を名指しせず「思ふ人」と言うことで、ひそかに慕う気持ちをにじませている句である。
二句「来むと知りせば」は、来るだろうと知っていたならの意である。「む」は推量、「せば」は過去の助動詞「き」の未然形「せ」に「ば」が付いた形で、結句の「まし」と呼応して反実仮想を表している。
三句「八重葎」は、幾重にも生い茂った葎である。荒れはてた住まいのさまを表す語で、次歌もこの語を受けている。
四句「覆へる庭に」は、覆い茂っている庭にの意である。「る」は存続の助動詞「り」の連体形で、葎がはびこったままになっているさまを表している。
結句「玉敷かましを」は、玉を敷いたであろうにの意である。「まし」は反実仮想の助動詞、「を」は詠嘆を込めた接続助詞で、実際にはできなかったことへの心残りを表している。
やへむぐら:幾重にも生い茂った葎。荒れはてた家や庭のさまをいう
たま:美しい石、玉石
しく:一面に並べ広げる
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
かへらまに君こそ我れに栲領巾の 白浜波の寄る時もなき
- 次の歌
-
玉敷ける家も何せむ八重葎 覆へる小屋も妹と居りせば