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紅の深染めの衣を下に着ば
人の見らくににほひ出でむかも

歌の意味
紅の濃く染めた衣を下に着たならば、人が見るときに、その色が表に映えて出てしまうだろうか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2828

詞書「譬喩」
 紅で濃く染めた衣を下に着ていたら、人に見られたときにその色が表に映え出てしまうだろうかと詠んだ歌である。心の奥に秘めた深い恋を下に着た紅の衣にたとえ、隠していても思いが人目にあらわれてしまうのではないかという不安を表している。
 詞書の「譬喩」は、思いを直接には言わず、物にたとえてそれとなく表す歌を集めた部立であり、本歌から巻第十一の譬喩歌が始まる。巻第十一の譬喩歌には「寄衣喩思」のように、何に寄せて思いをたとえたかが左注に記されており、本歌は左注「右二首寄衣喩思」によって次歌とともに衣に寄せる歌とされる。前歌の第二千八百二十七首と同じ「紅の」で始まり、紅に染める衣という題材で問答の部から譬喩の部へと橋渡しをする配列である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「紅の」は、紅花で染めた鮮やかな赤色の意である。前歌の初句と同じ語で始まり、燃えるような恋心を思わせる色を示している句である。
 二句「深染めの衣を」は、濃く染めた衣をの意である。染めの深さが、思いの深さをたとえている句である。
 三句「下に着ば」は、上着の下に着たならばの意である。「着」は上一段動詞「着る」の未然形で、「ば」が付いて仮定を表す。下に着ることは、恋を人に知られぬよう心に秘めることのたとえである。
 四句「人の見らくに」は、人が見るときにの意である。「見らく」は「見る」のク語法で、見ること、の意を表す。人目を気にする思いを示している句である。
 結句「にほひ出でむかも」は、色が映えて表に出てしまうだろうかの意である。「にほふ」は色が美しく映える意、「む」は推量、「かも」は疑問を含んだ詠嘆で、秘めた恋が人に知られることへの恐れを表している。八音の字余りである。

こぞめ:色を濃く染めること
みらく:見ること。「見る」のク語法
にほふ:色が美しく照り映える
出典
万葉集
前の歌
紅の花にしあらば衣手に 染め付け持ちて行くべく思ほゆ
次の歌
衣しも多くあらなむ取り替へて 着ればや君が面忘れたる