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衣しも多くあらなむ取り替へて
着ればや君が面忘れたる

歌の意味
衣がたくさんあるのだろう。次々と取り替えて着るからだろうか、あなたが私の顔を忘れてしまったのは。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2829

詞書は前の歌に続き「譬喩」
 衣がたくさんあって、取り替えては着ているからだろうか、あなたは私の顔を忘れてしまったと、訪れの途絶えた相手を責めた歌である。衣を取り替えて着ることに、相手が次々と別の女のもとへ通うことをたとえ、皮肉をこめて恨みを述べている。
 左注「右二首寄衣喩思」によって、前歌の第二千八百二十八首とともに衣に寄せて思いをたとえた歌である。前歌が自分の秘めた恋を下に着る衣にたとえたのに対し、本歌は相手の移り気を取り替えて着る衣にたとえており、同じ衣を用いて自分の心と相手の心とを対照的に詠み分けている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「衣しも」は、衣がの意である。「しも」は強めの助詞で、ほかならぬ衣を取り立てて、皮肉の矛先を示している句である。
 二句「多くあらなむ」は、たくさんあるのだろうの意に解される。「なむ」は本来他に対する願望を表す終助詞であり、この句の解釈には諸説あるが、ここでは下の句とのつながりから、衣が多いのだろうと推しはかる意に解した。ここで意味が切れる二句切れである。
 三句「取り替へて」は、次々と取り替えての意である。衣を着替えることに、相手を替えて通うことを重ねている句である。
 四句「着ればや君が」は、着るからだろうか、あなたがの意である。「ば」は已然形に付いて原因を表し、係助詞「や」は疑問を表して結句の「たる」で結ぶ係り結びである。
 結句「面忘れたる」は、顔を忘れてしまっているの意である。「たる」は完了の助動詞「たり」の連体形で、四句の「や」を受けて結んでいる。久しく訪れのない相手への恨みを表している句である。

おもわする:顔を忘れる
とりかふ:取り替える
出典
万葉集
前の歌
紅の深染めの衣を下に着ば 人の見らくににほひ出でむかも
次の歌
梓弓弓束巻き替へ中見さし さらに引くとも君がまにまに