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大和の室生の毛桃本繁く
言ひてしものをならずはやまじ

歌の意味
大和の室生の毛桃の根元が茂っているように、あれほどしきりに言い寄ったのだから、実が成るように恋が成就しないうちはやめるまい。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2834

詞書は前の歌に続き「譬喩」
 大和の室生の毛桃の根元が茂るように、しきりに言葉を尽くして言い寄ったのだから、桃が実を結ぶように恋が実らないうちはやめはしないと詠んだ歌である。桃の実が成ることに恋の成就を重ね、思いを遂げるまであきらめないという強い決意を表している。
 左注「右一首寄菓喩思」によって、果実に寄せて思いをたとえた歌とされる。前歌までの水辺の題材から、木の実へと移っている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「大和の」は、大和国のの意である。「やまとの」の四音で字足らずである。
 二句「室生の毛桃」は、大和国室生の毛桃の意である。室生は今の奈良県宇陀市の地とされ、初句と二句が序詞となって、毛桃の根元の茂るさまから「本繁く」を導いている。
 三句「本繁く」は、根元が茂っての意で、同時に、言葉しげく、しきりにの意を表している。序の桃の情景を、しきりに言い寄った自分の行いへと転じる句である。
 四句「言ひてしものを」は、言ってしまったのだからの意である。「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、「ものを」は逆接または詠嘆を表す接続助詞で、言い寄ったことを強く確かめている。
 結句「ならずはやまじ」は、成就しないうちはやめはしないの意である。「なら」は桃の実が成る意と恋が成就する意とを掛け、「ずは」は打消の仮定、「まじ」は打消の意志を表している。

けもも:実に細かい毛のある桃
なる:桃の実が成る意と、恋が成就する意を掛ける
出典
万葉集
前の歌
葦鴨のすだく池水溢るとも まけ溝の辺に我れ越えめやも
次の歌
ま葛延ふ小野の浅茅を心ゆも 人引かめやも我がなけなくに