いくばくも降らぬ雨ゆゑ我が背子が
御名のここだく瀧もとどろに
- 歌の意味
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いくらも降らない雨なのに、あなたの評判が、ひどく、滝の音がとどろくほどに立っている。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2840
詞書は前の歌に続き「譬喩」
わずかしか降らない雨なのに、滝がとどろくほどに水かさが増すように、わずかな逢瀬にすぎないのに、あなたの名がやたらと噂に立っていると詠んだ女の歌である。少しの雨を二人のささやかな仲に、滝のとどろきを世間の噂の騒がしさにたとえ、思いがけず立った噂への驚きと困惑を表している。
左注「右一首寄瀧喩思」によって、滝に寄せて思いをたとえた歌とされる。本歌は巻第十一の最後に置かれた歌であり、譬喩歌の部もこの一首で閉じられる。噂を恐れる思いは本巻の恋の歌に繰り返し詠まれており、その主題を滝のとどろきに託して巻を結んでいる。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「いくばくも」は、いくらもの意である。下の「降らぬ」の打消と呼応して、ほんのわずかしかという意を表している句である。
二句「降らぬ雨ゆゑ」は、降らない雨なのにの意である。「ゆゑ」はここでは逆接に解され、わずかな雨に、二人のささやかな仲をたとえている句である。
三句「我が背子が」は、私の夫の、私の恋しい人のの意である。「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語で、女の歌であることを示している句である。
四句「御名のここだく」は、あなたの評判が、ひどくの意である。「御名」は相手を敬って評判、噂をいう語で、「ここだく」は程度のはなはだしいことを表している。
結句「瀧もとどろに」は、滝がとどろくほどにの意である。噂の騒がしさを滝の音にたとえ、下に「立つ」などを略して言いさす形で、驚きの余韻を残して巻第十一を閉じている。
せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
な:評判、うわさ
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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かくしてやなほやまもらむ大荒木の 浮田の社の標にあらなくに
- 次の歌
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我が背子が朝明の姿よく見ずて 今日の間を恋ひ暮らすかも