古典和歌stream

うつつには直には逢はず夢にだに
逢ふと見えこそ我が恋ふらくに

歌の意味
現実には直接逢うことはない。せめて夢の中だけでも、逢うと見えてほしい。私がこれほど恋しく思っているのだから。
鑑賞
巻第十二 正述心緒 2850

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 現実には逢えないので、せめて夢の中で逢いたいと願う歌である。正述心緒の人麻呂歌集十首の結びに置かれ、前の二首とともに夢を頼む三首の流れをなしている。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇、文武天皇の朝廷に仕えた宮廷歌人である。本歌は左注により柿本人麻呂歌集から採られた歌とわかるが、人麻呂自身の作か、人麻呂が書き留めた歌かについては説が分かれる。

 初句「うつつには」は、現実には、の意で、三句の「夢」と対をなす。
 二句「直には逢はず」は、直接には逢えない、の意で、ここで二句切れとなる。
 三句「夢にだに」は、せめて夢にだけでも、の意である。本巻の第二千八百四十八首第二千八百四十九首と同じ語を受け継ぎ、夢を頼む歌が三首続く。
 四句「逢ふと見えこそ」の「こそ」は願望の終助詞で、逢うと見えてほしい、と願う。
 結句「我が恋ふらくに」の「恋ふらく」は「恋ふ」のク語法で、私がこんなに恋しているのだから、と理由を添えている。

うつつ:現実、目覚めている状態
こふ:恋しく思う、慕う
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
ぬばたまのその夢にだに見え継ぐや 袖干る日なく我れは恋ふるを
次の歌
人の見る上は結びて人の見ぬ 下紐開けて恋ふる日ぞ多き