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人言の繁き時には我妹子し
衣にありせば下に着ましを

歌の意味
人の噂がうるさい時には、いとしい妻がもし衣であったなら、下着として肌に着ていられるだろうに。
鑑賞
巻第十二 寄物陳思 2852

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 噂がうるさく逢えない時には、恋人が衣であれば下に着て肌身離さずにいられるのに、と願う男の歌である。人目に隠して恋人と共にいたいという思いを、衣に託して述べている。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇、文武天皇の朝廷に仕えた宮廷歌人である。本歌は左注により柿本人麻呂歌集から採られた歌とわかるが、人麻呂自身の作か、人麻呂が書き留めた歌かについては説が分かれる。
 本巻の第二千九百六十四首では女の側から「衣にあらば下にも着む」と歌われ、立場を入れ替えた同じ発想が見える。

 初句「人言の」は、世間の人々の噂をいう。
 二句「繁き時には」は、噂がうるさく立つ時には、の意である。
 三句「我妹子し」の「し」は強意の副助詞で、いとしい妻がもし、と強める。
 四句「衣にありせば」は、「せば」と結句の「まし」が呼応する反実仮想で、もし衣であったなら、の意である。
 結句「下に着ましを」は、下着として着るだろうに、の意で、人目に隠して肌身離さず持っていたい思いを示す。前歌の「下紐」に続き、表と下の対比が受け継がれている。

ひとごと:世間の人のうわさ
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
人の見る上は結びて人の見ぬ 下紐開けて恋ふる日ぞ多き
次の歌
真玉つくをちをし兼ねて思へこそ 一重の衣ひとり着て寝れ