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我が背子が来むと語りし夜は過ぎぬ
しゑやさらさらしこり来めやも

歌の意味
あの人が来ようと言っていた夜は過ぎてしまった。ええもう、今さら重ねてやって来ることなどあるものか。
鑑賞
巻第十二 正述心緒 2870

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 約束の夜に来なかった男に対し、もう来ることなどあるまいと投げやりに恨む女の歌である。感動詞「しゑや」に、期待を裏切られたやるせなさがにじむ。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「我が背子が」は、女が恋しい男を呼ぶ語である。
 二句「来むと語りし」は、来ようと言っていた、の意である。
 三句「夜は過ぎぬ」は、その夜は過ぎてしまった、の意で、ここで三句切れとなる。
 四句「しゑやさらさら」の「しゑや」は、ええもう、と投げやりな気持ちを表す感動詞、「さらさら」は、今さら、の意である。
 結句「しこり来めやも」の「しこり」は、重ねて、繰り返しての意とされ、「めやも」は反語で、重ねて来ることなどあろうか、と恨みを込めている。

かたる:話す、ここでは約束して言う
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
今は我は死なむよ我妹逢はずして 思ひわたれば安けくもなし
次の歌
人言の讒しを聞きて玉桙の 道にも逢はじと言へりし我妹