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世の中に恋繁けむと思はねば
君が手本をまかぬ夜もありき

歌の意味
この世にこれほど恋しさが募るものとは思わなかったので、あなたの袖を枕にしないで寝た夜もあったのだ。
鑑賞
巻第十二 正述心緒 2924

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋がこれほど苦しいものとは知らず、共寝をしなかった夜もあったと、過去を悔やむ女の歌である。本巻の第二千八百六十七首と同じく、過ぎた夜への悔恨を歌っている。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「世の中に」は、この世の中に、の意である。
 二句「恋繁けむと」は、恋しさがこれほど募るだろうと、の意である。
 三句「思はねば」は、思わなかったので、の意である。
 四句「君が手本を」は、あなたの袖を、の意である。
 結句「まかぬ夜もありき」は、枕にしないで寝た夜もあった、の意で、共寝の機会を逃した過去を悔やんでいる。

たもと:袖、袖口
まく:腕や袖を枕として巻く、共寝する
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
ただ今日も君には逢はめど人言を 繁み逢はずて恋ひわたるかも
次の歌
みどり子のためこそ乳母は求むと言へ 乳飲めや君が乳母求むらむ