生ける世に恋といふものを相見ねば
恋のうちにも我れぞ苦しき
- 歌の意味
-
生きているこの世で、恋というものに出会ったことがなかったので、恋する人々の中でも私こそが一番苦しい。
- 鑑賞
-
巻第十二 正述心緒 2930
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
これまで恋というものを知らなかったので、恋する者のなかでも自分が一番苦しいと嘆く女の歌である。初めての恋に戸惑い苦しむ心が、率直に表されている。
作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。
初句「生ける世に」は、生きているこの世で、の意である。
二句「恋といふものを」は、恋というものを、の意である。
三句「相見ねば」は、出会ったことがないので、の意で、恋を初めて経験したことを示す。
四句「恋のうちにも」は、恋する人々の中でも、の意である。
結句「我れぞ苦しき」の「ぞ」は係助詞で、連体形「苦しき」で結び、自分の恋こそが最も苦しいと強調している。
あひみる:顔を合わせる、出会う
- 作者
-
作者未詳
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
宵々に我が立ち待つにけだしくも 君来まさずは苦しかるべし
- 次の歌
-
思ひつつ居れば苦しもぬばたまの 夜に至らば我れこそ行かめ