古典和歌stream

うつせみの現し心も我れはなし
妹を相見ずて年の経ぬれば

歌の意味
この世に生きる人としての正気も、私にはない。あの子に逢わないまま年が過ぎてしまったので。
鑑賞
巻第十二 正述心緒 2960

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 逢わないまま年が過ぎ、生きている人としての正気さえ失ったと嘆く歌である。「うつせみ」と「現し心」の音を重ね、生きながら心を失った状態を表している。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「うつせみの」は、この世に生きる、の意で、「現し心」にかかる。
 二句「現し心も」は、正気、しっかりした心も、の意で、初句と「うつ」の音を重ねている。
 三句「我れはなし」は、私にはない、の意で、ここで三句切れとなる。
 四句「妹を相見ずて」は、あの子に逢わないで、の意で、八音の字余りである。
 結句「年の経ぬれば」は、年が過ぎてしまったので、の意で、本巻の第二千九百四十一首と同じ結句である。

うつしごころ:正気、しっかりした心
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
うつつには言も絶えたり夢にだに 継ぎて見えこそ直に逢ふまでに
次の歌
うつせみの常のことばと思へども 継ぎてし聞けば心惑ひぬ